新文芸坐で「震える舌」「事件」を観ました。今年3月に亡くなった渡瀬恒彦さんの追悼上映です。5月20日(土)~30日(火)まで「追悼・渡瀬恒彦 銀幕に刻まれた不死身の役者魂」という特集が開催中です。
キャッチコピー「おいで、おいで・・・幼い娘・・・。彼女はその朝、悪魔と旅に出た。」
「トラウマ映画」として有名な最恐のホラー映画。でも別に幽霊とかそういうのが出てくるわけではないのです。破傷風にかかった少女の闘病生活とそれを支える家族の姿を描いているのですが・・・演出がオカルト・ホラー。笑
泥んこ遊びをしていた少女・三好昌子(若命真裕子)は指にケガをします。両親・三好昭(渡瀬恒彦)と邦江(十朱幸代)はよくあるケガだと思っていましたが、数日後、昌子の歩き方がおかしいことに気がつきます。2人は昌子にその事を聞きますが、昌子は「歩けるけど歩きたくないの」と言い、話し方もいつもと何か違います。やがて、昌子は痙攣を起こし、舌を噛み切り悶え始めます。
大学病院での診断の結果、破傷風にかかっていると判明、隔離された病室で入院する事になります。
「ギィィィィィィィィ!!!!!」と叫び声をあげて痙攣を起こす姿は悪魔が憑依したんじゃないかという感じでみていて思わず、ぶるぶる・・・。発作のたびに口のまわりが血まみれになるし、症状が進むとエビ反りになって苦しんだり・・・。
子役の演技がすごい。迫真演技とはこういうことなのか・・・。この子は現在では芸能活動はしていないみたいですね・・・。
発作で苦しみ舌を噛み、窒息する危険がある場面で医者が「この子の歯、乳歯?また生えるからいいよね!?」と言って気道確保の為に、前歯をへし折って器具を挿入するシーンがあるんですよ。その時、ゴリゴリって前歯をへし折る音・・・折った歯をトレイにのせていくカット・・・医療行為なんだけど、グロテスクでみていてゾッとします・・・。
娘の破傷風を通じて、家族が崩壊寸前になっていく姿も描かれています。看病する両親もどんどんおかしくなっていきます。2人とも最初の頃とは別人のようにやつれてしまいます。
母親の邦江(十朱幸代)はノイローゼになり、病室で果物ナイフを持って暴れたりします。もう精神的にボロボロ。
それに2人とも娘の破傷風が移るんじゃないかという恐怖に怯えます。換えた娘の紙オムツをトイレに捨てた後、執拗に手を洗う父親(渡瀬恒彦)の姿とか生々しい。
とにかく全体的にホラーぽいんだけど、ただ怖いだけじゃなくて描写がリアルなんですね。だから観ていて考えさせられるし、ラストで感動するのです。
野村芳太郎監督の天才的な演出と名優達の迫真の演技が心を打つ名作。おススメです。
「事件」(1978年/松竹/監督:野村芳太郎)
こちらも野村芳太郎監督の作品。この映画は数々の賞を受賞しましたが、渡瀬さんはキネマ旬報助演男優賞、ブルーリボン助演男優賞、日本アカデミー助演男優賞を受賞しました。「野村監督の手の平で上で踊っていた」と渡瀬さんは語っています。
神奈川県の山林で若い女性の遺体が発見されます。被害者はこの町の出身で厚木でスナックを経営している坂井ハツ子(松坂慶子)でした。数日後、警察は19歳の工員・上田宏(永島敏行)を逮捕します。
公判で様々な証言者が登場し、事実が明らかになっていく本格的な法廷劇。
弁護士・丹波哲郎、検事・芦田伸介、裁判長・佐分利信という何かすごい人達によって裁判が進行していきます。
被告人・上田宏(永島敏行)は被害者・坂井ハツ子(松坂慶子)の妹・ヨシ子(大竹しのぶ)と同棲し、妊娠させます。その事を被害者であるハツ子に双方の親に告げ口される事を恐れ、登山ナイフで刺殺、遺体を隠す為に5mくらい引きずって窪地に落としたというのが被告人・上田の容疑です。
渡瀬さんは被害者・ハツ子のヒモでやくざぽい男・宮内を演じています。この宮内という人物、なかなかのクズぷりを発揮していますが、実はこの映画の鍵を握る人物です。法廷における彼の証言によって検察も弁護人も振り回されるのですが、結果的に宮内によって事件の謎が解き明かされていくわけです。
この映画は観ていて、いろいろ考えさせられます。人が人を裁くことの難しさとか・・・。
観終わった後、思わずう~むと唸ってしまいました。
あゝ・・・恐るべし、野村芳太郎。