最近観た映画の話。新文芸坐で「淵に立つ」「クリーピー 偽りの隣人」を観ました。4月9日(日)~22日(土)まで「気になる日本映画達<アイツラ>2016」という昨年公開した映画の特集上映を行っています。この機会に見逃した作品・もう一度観たい作品を観ましょう~。
「淵に立つ」(監督:深田晃司)
第69回カンヌ国際映画祭にて「ある視点」部門審査員賞を受賞した作品。
町工場を営む鈴岡利雄(古館寛治)のもとに古い友人である八坂(浅野忠信)が訪れます。殺人の前科を持つ八坂は出所して間もなく、その身を案じた利雄は八坂をしばらく自分のところで働かせ、自宅の一室を貸す事にします。そこから家族が崩壊していく様を描いていく作品です。
利雄の妻・章江(筒井真理子)は突然現われた八坂(浅野忠信)に戸惑いますが、人当たりが良く誠実な八坂に惹かれていきます。そしていつしか、八坂は家族同然の仲になっていきますが・・・八坂と章江がだんだん男と女の関係になり始めるんですね・・・。
八坂は過去に自分が犯してしまった殺人を章江に告白するんですが、章江はそれを聞いて離れてしまうのではなく、むしろ今は罪を悔い更生した八坂に好感を持つんですね。しかし男と女・・・少しずつ歯車が狂っていく・・・。
八坂(浅野忠信)は章江(筒井真理子)を犯そうとするんです。しかし、章江は拒絶・・・。そんな八坂(浅野忠信)のやり切れない気持ちの矛先は利雄(古舘寛治)と章江の娘・蛍に向けられることになります。八坂は蛍に乱暴を働き、姿を消します・・・。
ここまでが前半。後半はこれから8年後が舞台になります。前半はとにかく謎の男・八坂を演じた浅野忠信さんの芝居が見事です。たぶん八坂は本当に罪を悔い更生していたと思うのです。しかも八坂は殺人には共犯者がいた事をずっと話さず隠してきました。実はその共犯者というのは利雄(古館寛治)の事なんですね。
鈴岡利雄・章江(筒井真理子)夫婦はあまり会話がありませんが、娘・蛍とともにそれなりに穏やかに暮らしていました。利雄は特に何も信仰していませんが、章江と蛍はプロテスタントのクリスチャン。この夫婦、八坂が登場する前からどこかしっくりいっていない・・・って感じがするんです。でも、だからと言って何かあるわけでもなく穏やかに暮らしている。そんなところに突然・現れた謎の男・・・。利雄・章江夫婦も八坂も何か抱えているんです。それが不幸にも悲劇に向かって作用してしまった・・・そんな気がします。
しかし、本当にすごいのは後半です。八坂が姿を消した8年後、利雄・章江夫婦は平穏な生活をしていますが、娘・蛍は正気を失い、介護が必要な車椅子生活を送っています。後半は利雄・章江夫婦を演じた古館寛治さん、筒井真理子さんの演技に惹きつけられます。
極度な潔癖症になり、日々の生活や介護に疲れ果てた妻・章江。筒井真理子さんは前半の元気だった姿と比べると思わずぞっとしてしまうほどのやつれようです。
利雄は普段表面には出さないけれど心の中に持っている汚い部分が明らかになっていきます。でも、それを持っているのは利雄だけではなくて、たぶん誰もが実は持っている部分かもしれません・・・。
足の爪を切りながら、実は自分は八坂の共犯者だったと告白する利雄。自分は足を抑えていただけで実際に首を絞めたのは八坂だと言う利雄。もう過ぎた事だと流そうとするけれど、悲劇の始まりは利雄のそういうところから始まったんじゃないかと思ったりもするのです。小さい人間・・・って思ったりするけれど・・・でもそれは利雄だけじゃなくて、実はみんなそうなのかも・・・。
後味の悪い映画ですが、心にグサッとナイフが突き刺さるような鋭い作品です。
ややややややややばいくらいのサスペンスホラーの傑作。最初からラストまで緊張感を持って観る事が出来ます。
元・刑事で現在は大学で犯罪心理学を教えている高倉(西島秀俊)は妻・康子(竹内結子)とともに郊外の住宅街に引っ越します。そこで隣人・西野(香川照之)に出会います。
初めは無愛想で感じの悪い西野でしたが、次第に交流が進むうちに西野の娘・澪(藤野涼子)も含めた家族ぐるみの付き合いが始まります。
一方、高倉は元同僚・野上(東出昌大)から6年前の一家失踪事件の調査協力の依頼を受けます。そして、調べていくとその事件に西野が関わっているのではと疑惑を持ち始め・・・。
とにかく不気味な隣人・西野を演じた香川照之さんがすごいです・・・。マジで怖い・・・。登場から何かいかにも怪しい。たぶん、この人何かヤバい事すると思いました。そして、やっぱりヤバい奴でした。初めは無愛想な隣人として、だんだん実は愛想の良い隣人になり、やがて冷酷な犯罪者の顔を見せていきます・・・。あゝ・・・サイコパス・・・。ううう、怖いよー・・・。しかも、やり方が汚いというか気持ち悪いというか・・・自分で実行するのではなく・・・それと死体の処理をするのは何と・・・ゾゾゾ。
ある日、高倉は西野の娘・澪(藤野涼子)に言われます。
「あの人、お父さんじゃありません。全然知らない人です」
えええええええええ!?!?!?
あ、そうそう、藤野涼子さんといえば「ソロモンの偽証」の主演の子ですね。「ソロモンの偽証」の時もそうですが、澄んだ瞳をしているけど、梶芽衣子さんみたいに目力強い!と思ったのは僕だけでしょうか。
ところで、頭おかしいのは西野(香川照之)だけじゃない気がします。確かに1番頭おかしいのは西野だけど、実はみんなどこかおかしい。高倉だって、何かちょっと・・・。6年前の一家失踪事件の生き残りである少女(川口春奈)にいろいろ聞いたりするんですが・・・春奈ちゃん、もう怯えちゃってるよ!!!
超絶かわいい美少女春奈ちゃんはビクビクオドオドしながらも高倉に言い放ちます。
「あなたは人の心があるんですか」
とにかく狂った登場人物達とこれでもか!これでもか!というくらいの凄まじいどんでん返しの連続の展開!黒沢清、恐るべし。