「みちくさ」の記録⑧

ある日、学生時代に書いた卒業制作のプロットを見つけました。

記録の意味も込めて、あえて手を加えずに載せました。

(全8回)

 

 

「みちくさ」

・企画内容
 高校3年9月上旬、進学校に通う前田芳美(18歳)は受験勉強に励んでいた。ある放課後、芳美が忘れ物をとりに教室に戻ると担任の国語教師・中村健吾(51歳)がチョークを食べているのを目撃する。中村はチョークを食べてしまった事は誰にも言わないで欲しいと言い、芳美の足にしがみついた。芳美はどうしてチョークを食べていたのか尋ねた。中村の話では自分の息子に受験勉強を強いていたら、通っている高校で息子はストレスからチョークを食べしまい喉を詰まらせて死んでしまったという。中村は早く妻を亡くし、息子に過剰に期待していた。芳美は誰にも言わないと約束して教室から逃げるように出て行った。翌日、中村は失踪した。
 芳美は放課後、1人で椅子に座り、昨日の中村の事を思い出していた。ふっと芳美は立ち上がり、黒板に近づきチョークを食べ始めた。すると突然、教室のドアが開いた。振り向くとそれは同級生の吉田孝一(18歳)だった。孝一は進路希望調査を白紙で提出して職員室に呼び出されていた。孝一は考え中と誤魔化し職員室を出て、自分の鞄を取りに教室に戻ったところだった。

 

 帰り道、芳美と孝一は土手を歩きながら中村の事を話し合った。中村はどこに行ったのか、何故中村の息子はチョークを食べてしまったのか考えた。芳美は「チョーク、食べる気持ちわかるな。チョークって親や先生の味方みたいだから。私、授業中の夢を見て、先生がチョークで文字を書く音でうなされた事あるんだ」と言った。孝一は「それならいっそチョークなんかなくなれば良い」と言った。

 

 芳美と孝一はこの後、塾がある筈だが何となく行くのが億劫になっていた。河原に座り込み川の流れを見つめながらお互いの事を話し合った。
 芳美の家庭は皆、頭が良く兄は一流大学に通っている。いつも頭の良い兄のようになるように親から言われていた。芳美は家でも学校でも勉強する事を強いられ疲れていた。
 孝一は中学までは学年で成績がトップだったが、高校に入学してから成績が下のほうになってしまった。進学校では孝一以上に勉強の出来る生徒が大勢いた。孝一は2年生までは努力して上を目指していたが、3年生になってからはもう諦めてしまった。親や先生の言う通り、大学に行く事が嫌になっていた。しかし、特に夢がある訳ではない。孝一は芳美に夢はあるか聞いた。芳美は「小説家になりたい」と言った。芳美は外で遊ぶ事はあまり許されていないが、活字の本を読む事は許されていた。
 孝一はふっとポケットから煙草を取り出した。孝一が煙草に火をつけると芳美は「私も」と言った。孝一が「吸ったことあるの?」と聞くと芳美は「初めて」と答えた。孝一はこの煙草は大学に疑問を持ち退学してしまった先輩からもらったと話した。
 2人はやがて自分達も中村のように何処かに行ってしまおうと話し始めた。もう家にも学校にも帰りたくなかった。しかし、2人には行くあてがない。結局、2人は家に帰った。

 

 翌日、芳美は何事もなかったかのように学校に来た。しかし、授業時間になっても孝一は来なかった。他の生徒の話では学校で孝一に会ったらしい。先生は「やる気のない奴は放っておけ」と言って孝一の事を心配する様子もなく授業を始めようとした。すると先生の手が止まった。先生は「チョークがなくなっているが、誰か知らないか」と聞いた。この教室のチョークが1本残らずなくなっていたのだ。誰も知らないと言い、先生は仕方なくチョークを取りに職員室に戻って行った。   

                   
 昼休み、芳美は屋上で昼食を食べていた。芳美にとって屋上は誰にも束縛されない空間であり好きな場所だった。芳美は雲の流れを見つめた。するといきなり後ろから声を掛けられた。振り向くとそれは孝一であった。
 孝一は芳美に「お前、いつも一人で屋上で飯食べているのか?」と聞いた。芳美は頷くと今度は孝一に何故ここにいるのか聞いた。孝一は「サボっている」と答えた。本当は授業を受けるつもりで学校に来たが、やる気が起きず屋上で煙草を吸っていたという。そして、孝一はポケットから大量のチョークを取り出した。実は教室のチョークは孝一が盗んでいたのだ。孝一はチョークがなくなれば先生が困ると思って盗んだと話した。孝一は「このチョーク、どうしようか?」と言った。芳美は少し考えると、いきなり両手で大量のチョークを掴み屋上から地上に向かって投げつけた。チョークは砕け散った。そして、芳美は学校中のチョークを砕いてしまいたいと言った。芳美と孝一は放課後、学校中のチョークを集める事にした。

 

 放課後、学校中のチョークを屋上に集めた。ふっと見ると地上には校長がいる。芳美と孝一は屋上から地上にいる校長目がけてチョークを投げつけた。チョークは雨のように校長に降り注いだ。
 この事は問題になり、芳美と孝一は注意を受け親も呼び出された。それにより2人は家庭で居場所をなくした。そして、2人は家出する事にした。電車に乗って終点まで行った。夜の街を彷徨い、ラブホテルに泊まり激しく求め合った。
 朝になっても2人に新しい何かは見えて来ない。この先、どうなるのだろうという不安が心を支配していた。
 2人は今までバイトもした事がなく世間の事をまるで知らない。結局、家や学校に戻るしかないのだろうかと思い始めた。あまり計画も立てずに家出してしまった事を後悔し始めた。その後、2人は金を節約する為にコンビニで万引きしようとしたが、あっけなく捕まってしまった。2人は1週間停学になった。

 

 1週間後、停学が解けた芳美は普段通り学校に来た。芳美が教室に入ると黒板に相合傘が大きく描かれ、芳美と孝一の名前が書かれていた。芳美は黙って俯いたまま椅子に座った。しばらくすると孝一が教室に入って来た。孝一は黒板を消して、「誰が書いたんだ」と怒った。しかし、誰も反応しなかった。孝一は怒って近くいた同級生にチョークを投げつけた。するとその同級生は怒り、孝一にチョークを投げ返し「チョーク食って死ね」と言った。孝一は同級生に殴りかかった。しかし、周りの生徒達に止められてしまい逆に囲まれ暴力を受けた。ある同級生が孝一の口にチョークを押し込み「食えよ」と言った。孝一は仕方なくチョークを食べた。
 するとその光景を黙って見ていた芳美が突然立ち上がり、チョークを食べ始めた。無表情で黙々とチョークを食べる芳美の姿を見て周りの生徒達は不気味がり、いじめをやめた。
 孝一は芳美にやめるように話し掛けた。しかし、芳美はチョークを食べ続ける。芳美の様子が異常なので孝一と他の生徒は強引に芳美を保健室に連れて行った。

 

 芳美はすぐに親が迎えに来て帰宅した。翌日、何事もなかったかのように家を出て学校に向かった。通学路の土手を歩いていたが、あまり学校に行く気がしない。芳美は土手に座り、川の流れを見つめた。そして、スカートのポケットからチョークを1本取り出した。昨日、保健室に連れて行かれる前にポケットに入れたのだ。芳美はしばらくチョークを見つめると無意識にチョークを食べ始めた。すると「俺にも食わせろ」という声がした。声の方を見ると孝一であった。孝一は芳美の食べかけのチョークを食べて「不味いな」と言った。そして、「こっちのほうがうまい」と言って煙草を吸い始めた。芳美も孝一から煙草をもらい吸った。煙草を吸いながら芳美も「こっちのほうがうまいね」と言って泣いた。
 2人はどうしたら良いかわからないまま、とりあえず学校に向かって歩き始めた。