「みちくさ」の記録③

ある日、ふと学生時代に書いた卒業制作のプロット「みちくさ」を見つけました。

記録の意味も込めて、あえて手を加えずに載せていこうと思います。

(全8回予定)

 

ついにタイトルが「みちくさ」になりました。しかし、この後も何度かタイトルが変わりますが・・・。

 

 

 

「みちくさ」

・企画内容
 高校3年9月、石川妙子(18歳)は受験勉強に励んでいた。妙子の家庭は皆、頭が良く兄は一流大学に通っている。妙子は家でも学校でも勉強する事を強いられ少し疲れていた。実は妙子は勉強することが好きな訳ではない。テストで悪い点を取って家族に怒られるのが嫌だから一生懸命勉強している。通知表は5段階評価でオール5をとるのが当たり前だと考えている家庭なのだ。
 ある放課後、妙子は忘れ物をとりに教室に戻ると担任の国語教師・中村健吾(51歳)がチョークを食べているのを目撃する。中村はチョークを食べてしまった事は誰にも言わないで欲しいと言い、妙子の足にしがみつき泣いた。妙子はどうしてチョークを食べていたのか尋ねる。中村の話では自分の息子に受験勉強を強いていたら、通っている高校で息子はストレスからチョークを食べしまい喉を詰まらせて死んでしまったという。妙子は誰にも言わないと約束して教室から逃げるように出て行った。翌日、中村は突然失踪した。妙子は自分達に受験勉強を強いていた中村の失踪に衝撃を受け、何の為に勉強しているのだろうと疑問を持つようになった。
 そんな時に同級生の前田和夫(18歳)は数学の小テストを白紙で提出し数学教師・田辺達夫(35歳)に呼び出された。翌日、和夫は無断欠席した。和夫と妙子は特に仲が良い訳でも悪い訳でもなかった。妙子にとって和夫は同級生の一人に過ぎない。和夫が学校を休んだのも風邪程度に考えていた。

 

 帰り道、妙子は土手を歩いていた。すると河原で和夫が座り込んで川の流れを見つめている。和夫は制服を着て煙草を吸っていた。妙子は和夫が煙草を吸っている事に驚いた。話しかけるべきか躊躇したが、今日はどうしたのかと話しかけた。和夫は煙草を吸っているところを見られて焦った。しかし、開き直って堂々と煙草を吸い続けた。和夫はもう学校に行くのが嫌になった、何の為に勉強するのかわからないと話した。和夫は学校に行くつもりで家を出たが途中で行くのをやめたのだ。煙草は実は以前から隠れて吸っていたという。
 煙草は一昨年の生徒会長だった羽田町子(20歳)からもらったのだと言う。町子は一流大学に行ったが、このままで良いのかと思い大学をドロップアウトしていた。町子はヒッピーとなり、ついに自由を求めて世界各地を巡る旅に出た。今年の夏、日本を旅立つ前に故郷であるこの街に帰っていた時に偶然和夫と再会した。そして、町子は和夫にこのまま親が決めたレールに沿って何の目的もなく大学に行ってはいけないと話した。

 

 妙子と和夫は今の気持ちや将来の不安について話し合った。そして、日が暮れて妙子はそろそろ帰ろうと思い、和夫に別れを告げた。しかし、妙子は途中で和夫の事がふっと気になり引き返した。もしかしたら、和夫は家に帰る気がないのではと思ったのだ。
 妙子が引き返すとまだ和夫は土手に座って河を見つめていた。妙子は「帰らないの?」と話しかけた。和夫はもう家に帰りたくない、学校にも行きたくないと話した。妙子は「それじゃあ、これからどうするの?とりあえず帰ろうよ」と話すが和夫は「嫌だ」と言って土手を歩き始めた。妙子は和夫を放っておく事が出来ずについて行く。しかし、歩き始めても行くあてがない。やがて妙子は「お腹空かないの?どこかでご飯食べない?」と言った。和夫も腹が減っていた。2人は財布を見ると和夫は2050円、妙子は2380円しか入っていなかった。とりあえず、コンビニで弁当を買い公園で食べた。
 公園で星空を見上げながら妙子は「私も家に帰るのやめようかな。どこか遠いところに行きたい。中村先生はどこに行ったのかな?」と話した。とりあえず、2人は駅に向かいどこか遠いところに行く事にした。
 駅に着き、しばらく券売機の前で2人は立ち尽くした。妙子は「とりあえず、終点まで行こう」と言った。

                                         
 終点は新宿だった。2人は夜の新宿を彷徨ったが、やがて疲れて公園で休む事にした。和夫は妙子にシンナー遊びを教えた。和夫はシンナー遊びを町子から教わり時々している。最近はシンナー遊びの回数が増えてきている。
 シンナー遊びの後、2人は腹が減ったのでコンビニに行く事にした。お金をあまり使いたくなかったので万引きをした。おにぎりを盗み、公園で食べた。その後、する事もなく疲れたので2人は眠った。しかし突然、妙子は目を覚ました。目を開けるとそこには失踪した中村がいた。妙子はこれは夢なのか疑った。しかし、それは夢ではなく確かに中村であった。中村は「どうしてこんなところにいるんだ」と妙子と和夫に話しかけた。妙子は「中村先生こそ、どうしてこんなところにいるんですか?」と言った。妙子、和夫、中村はお互いの事情を話し合った。中村も行くあてがなく新宿を彷徨っているのだ。話し疲れると3人は公園で眠り朝を迎えた。
 朝が来ても3人に新しい何かは見えて来ない。中村は妙子と和夫に「とりあえず家に帰りなさい」と言い、交通費として2人に5000円を渡した。妙子は中村に「先生は帰らないの?」と聞いた。中村は「先生もそろそろ帰ろうかな」と言った。妙子は「それなら一緒に帰ろう」と言ったが中村は「もう少し街を彷徨って自分の人生を考えてみたい」と言った。
 妙子と和夫は中村に説得され自分達の街に戻った。土手を歩いているとふっと突然、和夫は立ち止まる。妙子は和夫に「どうしたの?」と尋ねた。すると和夫は「やっぱり、帰りたくない」と言いだした。妙子は「このままじゃ、お金なくて生活出来ないよ」と言った。
 結局、お互い金をとりに一度家に戻る事にした。金をとって来たら、橋の下で合流する事にした。妙子は家の前まで来たが入るのに躊躇した。普段、両親は共働きで兄は大学に行って誰もいないはずだ。しかし、昨日妙子は家に帰らなかった。その事によって誰か家にいるかもしれないと思ったのだ。妙子はドアノブに手をかけた。すると鍵が開いている。妙子は家に入らず和夫との合流場所に行った。しかし、いつまで経っても和夫は来ない。
 夜になり妙子は疲れていつのまにか眠ってしまった。妙子は夢の中で中村がチョークを食べている姿を見た。妙子は悲しい表情でその光景を見ている。すると突然、妙子は夢から覚めた。
 目を開けるとそこには警察官がいた。妙子の捜索をしていたのだ。妙子は保護され家に連れ戻された。妙子は警察官に和夫はどうなったのか聞いた。和夫は金をとりに家に入ろうとしたが、なかなか入れずに夜になっても近所を徘徊していた。夜になりついに決心して家にこっそり入ろうとしたが失敗し捕まったという。そして、妙子の居場所も話したという。

 

 その後、妙子は何事もなかったかのように学校に行き授業を受けている。結局、中村は今でも失踪したままである。和夫とはたまに会話をする程度で家出する前と同じように仲が良いわけでも悪いわけでもない。
 12月のある放課後、妙子は一人教室に残り椅子に座っていた。ふっと中村がチョークを食べている姿を思い出した。妙子は立ち上がり、チョークを食べ始めた。
 翌日、妙子は授業の後、日直だったので黒板を消していた。すると目の前にチョークがあった。ふっと妙子はチョークを見つめる。気がついた時には妙子はチョークを食べていた。同級生達は驚いて悲鳴をあげた。妙子がチョークを食べている姿を見て和夫も溜まっていた鬱憤が爆発してチョークを食べ始めた。2人は強制的に保健室に連れて行かれた。その日は妙子と和夫は自宅に帰された。
 夜、妙子は布団の中にいたが眠れなかった。起き上がり、スカートのポケットからチョークを取り出し掌に載せ見つめた。今日、保健室に連れて行かれる前に秘かにチョークをスカートのポケットに入れたのだ。妙子はしばらくチョークを見つめると着替え始め、旅行鞄に荷物を詰め込んだ。そして、夜が明ける前に家を出た。
 早朝、駅に行き新宿まで切符を買った。ホームのベンチに座り、掌にチョークを載せ見つめた。やがて電車が来た。妙子はチョークを食べると電車に乗り、新宿に向かった。