新文芸坐で「紀ノ川 花の巻・文緒の巻」を観ました。
「司葉子 美しさと凛々しさと」という女優・司葉子さんの特集です。
「紀ノ川 花の巻・文緒の巻」(1966年/松竹/監督:中村登)
巨匠・中村登監督が描く文芸映画。原作・有吉佐和子、脚本・久坂栄二郎
司葉子さんはこの映画で花という1人の女性を22歳~72歳まで演じました。
前後篇合わせて約3時間近くある大作。
和歌山の旧家に嫁ぎ、明治・大正・昭和と激動の時代を生き抜いた女性を描きました。
明治32(1899)年、22歳の紀本花(司葉子)が紀ノ川上流から船で下り、真谷家に嫁入りするシーンからこの映画は始まります。
花の夫となった真谷敬策(田村高廣)は温厚な性格で優秀。若くして村長をしています。
夫の弟・浩策(丹波哲郎)は病気で大学を中退し家にいる為か、少しひねくれています。
やがて、浩策は敬策から山を壌渡してもらい分家します。
始めは花に対して冷たかった浩策ですが、時が経つにつれ態度が軟化していきます。
時が経ち、花(司葉子)は長男・誠一郎、長女・文緒を生みます。
大正になり長女の文緒(岩下志麻)は進歩的で現代的な女学生に成長します。学校で教師に反撥しストライキを起こすなど問題行動を起こしています。
また、常に母親である花に反抗的な態度をとります。文緒は真谷家という「家」を守り、昔風の美徳に生きている花に反撥しているのです。
古い世代の花(司葉子)と新しい世代の文緒(岩下志麻)は反撥し合いますが、時が経つにつれて和解していきます。
文緒は同人仲間の晴海栄二と結婚します。
さらに時が流れ昭和になります。
文緒は自分の子どもに華子と名付けました。
花の夫・敬策(田村高廣)は地方の政治家として忙しい日々を送っていましたが、戦争前に亡くなります。
花(司葉子)、文緒(岩下志麻)、華子(有川由紀)も戦争に巻き込まれていきます。
そして、戦後・・・。
花(司葉子)を中心とした三代に渡る女性の物語。世代によって異なる価値観を持ちながらも受け継がれていく血縁。紀ノ川は物語の最初から最後まで登場します。紀ノ川は花の生涯の象徴なのでしょう。
花(司葉子)は個を捨てて、夫や「家」の為に人生を捧げました。しかし、戦後になり自分が守ろうとした「家」は変わってしまいました。
それでも花の人生は美しかったと思います。古い価値観かもしれませんが、その生き方には芯があり、力強さがあります。
この映画は22歳~72歳まで見事に演じきった司葉子さんの入魂の演技が素晴らしい。美しさと凛々しさがフィルムに刻まれています。