甦る映画魂 石井輝男「実録三億円事件 時効成立」「黒線地帯」

シネマヴェーラ渋谷で「実録三億円事件 時効成立」「黒線地帯」を観ました。

「甦る映画魂 石井輝男」というキング・オブ・カルトの異名を持つ石井輝男監督の十三回忌追悼特集を5月20日(土)~6月16日(金)まで開催中。

 

 

「実録三億円事件   時効成立」(1975年/東映/監督:石井輝男

1968年(昭和43年)12月10日に起きた三億円事件。その時効が目前に迫った1975年(昭和50年)11月22日に封切られた作品です。

 

1975年(昭和50年)12月10日に時効が成立する三億円事件に世間が再注目するだろうという事で・・・東映岡田茂社長の指示のもとつくられたキワモノ映画。

この映画の犯人はもちろん架空の犯人像ですが、時効が迫る三億円事件を独自の大胆な解釈で描いていて、とても面白い。

東映お得意の「見世物映画」です。笑

犯行シーンは実際の現場で撮影。さすが東映

 

いきなり冒頭、現実の三億円事件の捜査を担当した平塚八兵衛刑事(本人)と武藤三男捜査課長(本人)のインタビュー映像。基本的には単独犯という説を述べています。ふむふむ。

 

さて、この映画の三億円事件の犯人であり、主人公を演じているのは岡田裕介さんです。現在の東映の社長です。若い頃は俳優として活動していました。お父さんは当時の東映の社長・岡田茂さんですね。

 

 

1968年(昭和43年)ギャンブル狂いの西原房夫(岡田裕介)はアパ―トで向田孝子(小川真由美)と同棲生活を送っていますが、借金のカタとして家財道具を一切持って行かれてしまいます。

呆然する孝子・・・偶然、ノートに西原が書いたらしい犯罪を思わす文章を見つけます。孝子はこれは何だと西原に問いつめます。

西原は実は八ヶ月前からある計画を練っており、農協を脅して400万円を要求するのはそのある計画の為の目くらましであると話します。

こうして、孝子も加わり計画を進めていきます。

そして、12月10日・・・。

 

という感じで前半、三億円を強奪します。ですが、この映画はここで終わりません。その後、時効が成立する1975年(昭和50年)まで描いています。

もちろん、犯人である西原(岡田裕介)と孝子(小川真由美)の生活は創作ですが、捕まる寸前まで追い込まれます。後半、2人を追い詰めるベテラン刑事・葛城を金子信雄さんが演じています。この刑事のモデルは実際に捜査を担当した平塚八兵衛刑事だと思われます。

 

さて、金子信雄おじさま、大活躍です。相変わらず金子節を炸裂しています。かわいい。笑

 

それにしても今だに三億円事件の犯人って謎ですね・・・。まだ生きているのかな。目撃証言によると若者らしい。生きていたら60代後半~70代か。

 

これだけの犯罪を計画的に進め、今だに捕まらない犯人はもちろん頭の良い人物だと思います。しかも強運の持ち主!

意外(?)に犯行前後、目撃証言もあるし、やっぱり焦っていたぽい。そりゃそうだよね、犯人にとっては一世一代の大博奕。三億円を手に入れるか、バレて刑務所送りになるかのね。

 

逃走中、赤信号を無視して車にぶつかりそうになっているのね。その時の目撃証言によると若い長髪の男らしい。

さらに幼稚園に子どもを送って帰宅中の主婦3人に思い切り泥ハネして、車のナンバーを通報されています。この110番が逃走経路解明のきっかけになりました。

犯行前も現場付近で不審な男が目撃されているみたいで・・・。

でも、当日は雨だった為か曖昧な証言も多く・・・。

 

犯人が残したと思われる遺留品も多いのですが、盗難品や大量生産されたもので・・・犯人を特定する証拠とはならず・・・。

 

調べると案外、完全犯罪にならなかったのかも・・・という感じもします。初動捜査の遅れとか犯行後の様々な要因で結果的に未解決事件になった・・・そんな気もします。

 

そういえば偽装白バイに乗った犯人ですが、オートバイに被せていたと思われるシートカバーを後方に引きづったまま現金輸送車に近づいているんですね。たぶん、かなり緊張していたのでは・・・?心臓バクバクだったと思う。

 

 

さて、それはそうと・・・今回観た「実録三億円事件 時効成立」はなかなか見応えある作品です。時効成立目前に実際の未解決事件を映画化してしまう東映、やっぱりすごいなぁと思います。必見です。

 

 

 

 

 

「黒線地帯」(1960年/新東宝/監督:石井輝男

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天知茂のとってもダンディーなカッコよさと石井輝男監督のシャープな演出に酔いしれる傑作。黒線とは黒社会の売春・麻薬ルート。

 

 

トップ屋の町田広二(天知茂)は秘密売春組織を追っていました。街頭の女易者の案内で連れ込み宿に行きますが、そこでポン引きに眠り薬を飲まされます。町田が目を覚ますと、町田のネクタイで女が首を絞められ死んでいました。

罠だと悟った町田は逃走、女易者とポン引きを探します。

殺された女は踊り子で新聞では「踊り子殺人事件」として報じます。町田のライバル・鳥井五郎(細川俊夫)は町田を犯人だと疑います。

独自に事件を捜査する町田。そして、あばずれ女・麻耶(三原葉子)に出会います・・・。

 

町田(天知茂)が迷い込むキャバレーやオカマバーなどの当時の猥雑とした雰囲気が良い味を出しています。これは「街」の映画ですね。

内容自体は犯人に仕立てあげられた主人公が追われながらも真犯人を追い詰めていくというサスペンスの定番。ですが、さすが石井輝男という感じの面白さがあります。

 

麻耶(三原葉子)がたびたび町田(天知茂)に「あなたついてるわよ」と励ますおまじない(?)もステキ。

こちらも機会があれば、ぜひ観て欲しい作品です。