詩②

10代の頃に書いた詩をいくつか発掘。

 

「虫 その一」

幸福とは人が人生の中で求めている虫だ

人は人生の悲しみの中で

一握りの幸福という名の虫を求めてさまよう

しかし その虫は遠い世界に生息しているわけではない

そう よく見れば私達のすぐそばにいるのかもしれない

気がついていないが もうすでに捕まえているかもしれない

その虫を籠の中から逃がしてしまった時

初めてそれが幸福であったと気がつく人もいる

その虫の色を尋ねられても私には答えられない

なぜならその色は一つではないからだ

そして形がなく目に見えないからだ

しかし目に見えなくても感じることができる

その虫の存在を感じている人は美しい 

 

 

「虫 その二」

人は人生の中で絶望という虫を

心の籠に幾度も飼う

その虫は幸福の虫を食べて成長し

もしかしたら 人の命を奪ってしまうかもしれない

しかし その虫が心の籠に住み着いてしまっても

必ず不幸になるわけではない

その虫は繭を創り脱皮して

蝶に生まれ変わり旅立つかもしれない

その虫がどのような成虫になるのかは

人の育て方によって様々である

 

「虫 その三」

人気という虫は大勢の人によって支えられて生きている

その虫は一人では生きられず 

誰かが支えてくれないと死んでしまう

その虫にとっての幸福は

大勢の人に注目してもらうことのように見える

 

しかし その虫は一人では生きられないくせに

本当は誰よりも淋しがり屋なくせに

孤独という靴を履いている

その虫は本当の幸福は大勢の人に注目してもらうことではなく

一握りでも心から抱きしめてくれる愛があることだと知っている

 

 

「虫 その四」

その虫はこの世のことを何も知らない

考えが自分の世界から抜け出せない人のところには この虫が集まる

だから過ちを繰り返してしまう

何も知らないから恐ろしいことをしてしまう

 

しかし それで無知であったと気づく虫は本当の無知ではない

おそらくいつかその虫は硬い殻を突き破り

大空に羽ばたく蝶になるだろう

過ちを繰り返しても

それを過ちと気づかない虫こそ

本当の無知の虫である

 

 

「虫 その五」

この虫はまだ死んだことがない

戦い血を流す季節を繰り返して来た

この虫は一人では生きられない

この虫を生かし育てるために

幾つもの命が捧げられている

この虫は数え切れない季節を生きて来た

そして歴史には同じ季節は一度しかないと知っている

この虫は育てる人がいなくなれば死ぬ

しかし その時はおそらく来ないだろう

人はこの虫を育てることが好きだからだ

今日もこの虫は幾つもの命によって育てられている

 

 

「虫 その六」

この虫はなかなか気がつきにくい

その存在を隠すことが上手いのだ

人はこの虫がいつのまにか

心の籠に住み着いていることすら気づかないことがある

そして そのことが自分でも気づかない弱点になる

この虫は様々なところに影のように潜んでいる

この虫はかくれんぼが大好きなのだ