「みちくさ」の記録⑦

ある日、ふと学生時代に書いた卒業制作のプロット「みちくさ」を見つけました。

記録の意味も込めて、あえて手を加えずに載せていこうと思います。

(全8回予定)

 

何故かタイトルが「秋の気配」になりました。

 

 

 

「秋の気配」

・企画内容
 高校3年9月のある放課後、前田芳美(18歳)が忘れ物をとりに教室に戻ると担任の国語教師・中村健吾(51歳)がチョークを食べているのを目撃する。中村はチョークを食べてしまった事は誰にも言わないで欲しいと言い、芳美の足にしがみつき泣いた。芳美はどうしてチョークを食べていたのか尋ねる。中村の話では自分の息子に受験勉強を強いていたら、通っている高校で息子はストレスからチョークを食べしまい喉を詰まらせて死んでしまったという。中村は早く妻を亡くし、息子に過剰に期待していた。息子にはそれが耐えられなかったのだ。芳美は誰にも言わないと約束して教室から逃げるように出て行った。翌日、中村は失踪した。
 芳美はその日の放課後、一人で椅子に座り、昨日の中村の事を思い出していた。ふっと芳美は立ち上がり、黒板に近づきチョークを食べ始めた。すると突然、教室のドアが開いた。振り向くとそれは同級生の吉田孝一(18歳)だった。孝一は進路希望調査を白紙で提出して職員室に呼び出されていた。孝一は考え中と誤魔化し職員室を出て、自分の鞄を取りに教室に戻ったところだった。

 

 芳美と孝一は河原でお互いの事を話し合った。芳美の家庭は皆、頭が良く兄は一流大学に通っている。いつも頭の良い兄のようになるように親から言われていた。芳美は家でも学校でも勉強する事を強いられ少し疲れていた。実は芳美には夢があった。芳美は高校時代、演劇部に所属しており将来は女優になりたいと思っていた。芳美は親に本当の気持ちを話した。しかし、反対されてしまった。さらに受験勉強を強いられ兄と比べられてしまうのだった。
 孝一は軽音楽部に所属しバンドでギターを弾いていた。将来はプロのミュージシャンになりたいと思っていたが、他のバンドメンバーは大学受験の為に脱退してしまい、ついにバンドは解散してしまった。孝一は親や学校が敷いたレールに乗って生きるのは嫌だと思っている。自分の好きなように生きたい、自分を縛りつけるあらゆるものに反抗したいと思っている。しかし、心の中でそう思っていても中途半端な自分は結局反抗出来ずにいると話した。
 お互いの事を話し合っているうちにもう家や学校には帰らないと決めた。しかし、二人には行くあてがない。とりあえず、川の流れに沿って歩いてみることにした。

 

 夜、芳美と孝一は橋の上から川の流れを見つめていた。孝一が煙草に火をつけると芳美は「私も」と言った。孝一が「吸ったことあるの?」と聞くと芳美は「初めて」と答えた。どこに行こうか話していると芳美は「海に行きたい」と言った。芳美は去年、友人達と海に行った。その時、皆で来年も海に行こうと約束した。しかし、結局今年は皆、大学受験だと言って行かなかった。芳美と孝一は海に行く事にした。終電に乗り、海辺の町に向かった。深夜、波の音に包まれながら浜辺で激しく求め合った。

 

 朝が来た。しかし、二人には新しい何かは見えて来ない。浜辺をしばらく歩くと大勢の人が集まっていた。気になって覗いてみると人々の中心に絡み合った男女の水死体があった。集まっていた人々の話では、女は人妻で年下の男と許されない恋をしていた。思い通りにならないこの世を儚んで自殺したという。
 集まっていた人々の中にいた山川周平(38歳)が芳美と孝一に「君たち、どこから来たの?ここの近くの学校の制服じゃないね」と話しかけて来た。二人は誤魔化そうにも上手く説明出来ない。何かあると悟った山川はとりあえず、芳美と孝一を自分の店に誘った。山川は海の家「さざ波」を開いていた。
                                           
 海の家「さざ波」は空いていた。浜辺で遊ぶ人も少ない。かき氷を食べながら芳美と孝一は山川の話を聞いた。山川は「9月の海は8月の海より静かなんだ。秋になると、この店も淋しくなる」と言った。5年前まで山川は都会でサラリーマンをしていた。しかし、上司の不正を告発したら突然解雇されてしまった。その後、山川は荒れ酒浸りになった。そして、妻子にも逃げられてしまった。
 山川は自殺しようとこの街に来た。実際に崖から海に飛び降りた。しかし、「さざ波」の前の主人、堀内順吉(60歳)に助けられ一命を取りとめた。山川は「さざ波」を手伝うようになり、精神的にも回復していった。堀内は去年、病気で急死した。今は山川が一人で経営している。

 

 山川は芳美と孝一に「かき氷食べたら帰りなさい」と言った。しかし、芳美と孝一は拒否した。それどころか芳美と孝一はしばらく泊めて欲しいと言った。山川は2、3日だけなら良いと言って「その間に自分達の事を見つめて帰りなさい」と二人を諭した。

 

 芳美と孝一は制服を脱いで、山川の私服を借りて外に出た。浜辺を歩きながら芳美は「中村先生はどこに行ったんだろう」と言い「もしかしたら、海に帰ったのかも」と言った。孝一は「何で先生の息子さんはチョークを食べちゃったのかな」と言った。芳美は「チョーク、食べる気持ちわかるな。チョークって親や先生の味方みたいだから。私、授業中の夢を見て、先生がチョークで文字を書く音でうなされた事あるんだ」と言った。
 孝一は「チョークを食べる事によって学校に反抗したんだな」と言った。海には芳美と孝一以外、誰もいなかった。二人は全裸になり、海で泳いだ。

 

 「さざ波」に戻ると警察官がおり、山川が逮捕されていた。山川の過去の話は嘘ではなかったが、妻子に逃げられた後、やけになった山川は解雇した会社を襲って上司を殺害していた。しかし、警察は粘り強く事件を調査しており、ついに逮捕に至ったという。芳美と孝一は参考人として連れて行かれた。そして、家出が発覚してしまい、そのまま保護された。

 

 翌日、芳美は普段通り学校に来た。芳美が教室に入ると黒板に相合傘が大きく描かれ、芳美と孝一の名前が書かれていた。芳美は黙って俯いたまま椅子に座った。しばらくすると孝一が教室に入って来た。孝一は黒板を消して、「誰が書いたんだ」と怒った。しかし、誰も反応しなかった。孝一は怒って近くいた同級生にチョークを投げつけた。するとその同級生は怒り、孝一にチョークを投げ返し「チョークを食って死ね」と言った。孝一は同級生に殴りかかった。しかし、周りの生徒達に止められてしまい逆に囲まれ暴力を受けた。ある同級生が孝一の口にチョークを押し込み「食えよ」と言った。孝一は仕方なくチョークを食べた。
 するとその光景を黙って見ていた芳美が突然立ち上がり、チョークを食べ始めた。無表情で黙々とチョークを食べる芳美の姿を見て周りの生徒達は不気味がり、いじめをやめた。
 その日以来、学校中のチョークがなくなり始めた。芳美と孝一はお互い犯人ではないかと疑った。しかし、どうやら違うようだ。
 ある日、芳美は日直だったので授業の後、黒板を消していた。ふっと見ると目の前にはチョークがある。芳美は無意識にチョークを食べてしまった。しかし、周りの生徒達は特に驚かない。孝一が芳美を止めようとすると周りの生徒達が「良いじゃないか」と言い出した。チョークがなくなって教師達が困っている姿を見たいと言った。生徒達にとってチョークは権力の象徴であった。
 いつしか孝一も他の生徒達もチョークを食べ初め、教室中にチョークを食べる音が響いた。