とみいさん名作劇場③「醜聞(スキャンダル)」

 

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醜聞(スキャンダル)」(1950年4月26日公開/松竹)

 

監督:黒澤明
脚本:黒澤明菊島隆三
企画:本木荘二郎
製作:小出孝
音楽:早坂文雄
監督補佐:萩山輝男
監督助手:小林桂三郎、野村芳太郎、二本松嘉瑞、中平康
美術:濱田辰雄
装飾:守谷節太郎
装置:小林孝正
撮影:生方敏夫
照明:加藤政雄
調音:大村三吉
編集:杉原よ志
記録:森下英男
スチール:梶本一三
現像:神田亀太郎
焼付:中村興一
特殊撮影:川上景司
衣装:鈴木文治郎
結髪:佐久間とく
床山:吉澤金五郎
演技事務:上原照久
撮影事務:手代木功
経理担当:武藤鐵太郎
進行:新井勝次

出演:三船敏郎山口淑子志村喬桂木洋子千石規子、小沢栄、日守新一、三井弘次、北林谷栄、上田吉二郎、左ト全、殿山泰司、高堂國典、青山杉作、千秋實

 


東宝争議の為に東宝での映画製作が出来ず、他社で作品を撮っていた頃の黒澤明監督の初の松竹作品です。
無責任なマスコミの言論の暴力を不快に思っていた黒澤監督が過剰なジャーナリズムの問題に挑んだ社会派映画。
1950年にこういうテーマを取り上げるとは先見性があると思います。

 

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新進画家の青江一郎(三船敏郎)はオートバイを飛ばし、伊豆の山々を描きに来ていました。
3人の木樵は青江の絵を不思議そうに眺めています。
するとそこへ人気声楽家の西條美也子(山口淑子)が現れます。青江は西條と同じ宿だとわかると彼女をオートバイに乗せ、宿に向かいました。
その後、青江は西條の部屋を訪ね、しばらく談笑していました。その場面を雑誌社「アムール」のカメラマンに隠し撮りされ、嘘の熱愛記事を書かれてしまいます。

 

恋はオートバイに乗って」という煽情的な見出しで雑誌は飛ぶように売れ、街頭で大々的に宣伝されました。
青江(三船敏郎)は憤慨し、アムール社に乗り込み編集長の堀(小沢栄)を殴り倒し、騒ぎはさらに大きくなっていきます。
青江はついに雑誌社を告訴する事にします。するとそこに蛭田(志村喬)という弁護士が自分を売り込みにやって来ます。
翌日、青江は素性を確かめる為に蛭田の家を訪ねます。そこには結核で寝たきりの蛭田の娘・正子(桂木洋子)がいました。
青江は清純な娘である正子に好感を持ち、この子の父親なら大丈夫だろうと思い、蛭田に弁護を依頼します。
ところが病気の娘を抱え、金のない蛭田は10万円の小切手で堀(小沢栄)に買収されてしまい・・・。

 

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今も昔もマスコミの体質ってあまり変わらないんだなぁと思います。
現在にも通じるテーマだと思います。スキャンダルっていつの時代でも雑誌のネタになりますし、どこまでが本当なのかわからない部分がありますよね・・・。

 

本作の青江(三船敏郎)&西條(山口淑子)のスキャンダルはアムール社という雑誌社によるでっちあげ。
青江は正直で間違った事が許せない青年。そして、病気で寝たきりの蛭田(志村喬)の娘・正子(桂木洋子)を励まそうとする優しさを持っています。
青江がオルガンで伴奏し、声楽家の西條(山口淑子)が「きよしこの夜」を歌うシーンはとても美しい。

 

主人公は三船敏郎演じる青江だとは思うのですが、本作の最重要人物は何といっても志村喬演じる弁護士・蛭田です。
中盤から蛭田が主人公なのではと思うくらい物語を進行させる人物になっていきます。
この蛭田という人物がとても面白く、興味深い人物なのです。
青江の弁護士なのにアムール社の編集長・堀に買収されてしまいます。
ダメな弁護士なのですが、本人もその事を悩んでいます。自分はダメな人間だ、蛆虫だと思いながら、変われない自分と闘っているのです。

 

物語は蛭田(志村喬)の葛藤に焦点が移っていきます。彼の心にも良心があります。弱い人間かもしれませんが、決して悪い人物ではないのです。
そんな蛭田が法廷で変わろうと決意した時、それこそがこの映画で最も美しいシーンではないかと思います。
」が生まれる瞬間、それが本作の最大の魅力です。

 

ところで・・・三船敏郎志村喬の演技ももちろん良いのですが、個人的に注目して欲しいのはアムール社の編集長を演じた小沢栄小沢栄太郎)さんです。憎々しい悪役で定評のある日本映画史に残る名優ですね。本作でも相変わらずの憎々しい演技です。

 

小沢栄演じる堀編集長はフェイクニュース上等主義です。
記事なんか少しぐらい出鱈目でも、活字になりさえすれば世間が信用するよ
抗議されたら誰も読まないようなところに謝罪広告を出せばそれで済む

 

さらに蛭田(志村喬)の弱みにつけ込み、買収。何でも金で解決しようとします。
堀編集長は「大物」の悪党のオーラがあります。
さすが小沢栄、「キング・オブ・悪役」です。もはや悪の名人です。

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本作は黒澤明監督のマスコミに対する「怒り」が込められており、メッセージ性を感じます。
有名な作品が多い黒澤映画の中ではちょっとマイナーかもしれません。
しかし、実は隠れた名作なのです。
そして、本作にも黒澤流のヒューマニズムが輝いています。

 

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