没後20年 藤田敏八 あの夏の光と影は~二十年目の八月「帰らざる日々」「八月の濡れた砂」

新文芸坐で「帰らざる日々」「八月の濡れた砂」を観ました。
今年、没後20年になる藤田敏八監督の70年代青春映画の名作です。

 


「帰らざる日々」(1978年8月19日公開/日活)

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監督:藤田敏八
製作:岡田裕
企画:佐々木志郎、進藤貴美男
原作:中岡京平「夏の栄光」
脚本:藤田敏八、中岡京平
音楽:石川鷹彦
選曲・音楽構成:アリス
助監督:上垣保朗
美術:渡辺平八郎
撮影:前田米造
照明:新川真
録音:橋本文雄
編集:井上治
スチール:井本俊康
主題歌:アリス「帰らざる日々」
出演:江藤潤、永島敏行、浅野真弓、竹田かおり、中村敦夫中尾彬、浅丘夢路、根岸とし江吉行和子、草薙幸二郎


原作は中岡京平の第三回城戸賞受賞作「夏の栄光」・・・とのことですが、タイトルも「帰らざる日々」に変更され、脚本も藤田敏八監督の手が入っています。
1976年4月5日にリリースされたアリスのヒット曲「帰らざる日々」を主題歌に起用しています。
ちなみにアリス「帰らざる日々」の曲の内容と映画は関係ありません。笑
とはいえ、曲のイメージとは異なるはずなのですが、何となく雰囲気に合っているような気がしてくる不思議な映画でもあります。
アリスの曲は「帰らざる日々」以外にも「つむじ風」が挿入歌として使用されています。


1978年夏、東京で暮らす野崎辰雄(永島敏行)はキャバレーのボーイをしながら作家を志しています。ある日、父親の死の知らせを聞き、6年ぶりに帰郷する事になります。
早朝の新宿駅。野崎は故郷である長野県飯田に向かう列車に乗ります。

 

1972年夏、辰雄の父・文雄(草薙幸二郎)は若い女のもとに走り、辰雄は母・加代(浅丘夢路)と2人で暮らしていました。
高校3年生だった辰雄は溜まり場の喫茶店の年上のウェイトレス・真紀子(浅野真弓)に密かに好意を持っていました。
そんな辰雄の前に真紀子と親し気な男が現れます。それは辰雄と同じ高校の隆三(江藤潤)でした。
ショックを受けた辰雄は隆三に挑む機会をうかがいます。そして、ついにマラソン大会の日に辰雄と隆三はデットヒートを繰り広げます。
その後、隆三と真紀子はいとこ同士とわかります。

 

卒業後、東京に出ようと思っている辰雄(永島敏行)、学校をやめて競輪学校に入る夢を持っている隆三(江藤潤)、そして真紀子(浅野真弓)の3人は友情を深めていきます。
ところが夏休み、盆踊りのあった晩・・・。


あゝ・・・何と甘酸っぱく、ほろ苦い青春映画なのでしょう。
二度と帰らない高3の夏・・・。
大人の階段を昇っていく瞬間を捉えた作品です。

 

登場する高校生たちが何か老けている気がする・・・・のは、ツッコまないようにしましょう。笑

 

この映画は例えば部活とか何か一つの事に打ち込んだりする熱い青春映画ではありません。ある田舎の高校生の日常・・・を描いています。
年上のウェイトレスに憧れつつも、昔の同級生の女の子に抱く恋心に揺れたり・・・不良学生に気に入られ、やがて親友になったり・・・普遍的なエピソードで綴られています。

 

辰雄(永島敏行)と隆三(江藤潤)が仲良くなるきっかけのマラソン。これが実は後々の布石にもなっているので特に注目して欲しいと思います。

 

青春とは良い事ばかりではなく、時には残酷でもあります。そんな残酷さも描かれており、だからこそ観ていて胸が痛くなり、切ない余韻が残ります。

 

 

 

 

アリス「帰らざる日々」

作詞・作曲:谷村新司

1976年の映像


アリス 帰らざる日々

 

 

 

 

 


八月の濡れた砂」(1971年8月25日公開/日活)

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監督:藤田敏八
企画:大塚和、藤浪浩
脚本:藤田敏八、峰尾基三、大和屋竺
助監督:松岡明
音楽:むつ・ひろし、ぺぺ
美術:千葉和彦
撮影:萩原憲治
照明:大西美津男
録音:古山恒夫
編集:丹治睦夫
スチール:浅石靖
主題歌:石川セリ八月の濡れた砂
出演:広瀬昌助、村野武範藤田みどりテレサ野田、隅田和世、中沢治夫、渡辺文雄原田芳雄地井武男


以前、DVDで観た事あり。ずっと劇場で観たかった作品。
1971年、ロマンポルノに移行する前の旧体制日活の最後の作品。
夏の湘南を舞台に無軌道な青春を送る若者たちを描いた傑作です。
実は最初観た時は、そんなに良いと思っていなかったのですが、DVDで2回目を観てから好きになってきました。ハマると何かクセになるのです。今ではとても好きな作品。


高校の校庭に退学した野上健一郎(村野武範)がやって来ます。それを苦々しく見つめる教師・・・。
健一郎は転がっているサッカーボールを校舎の窓ガラスに向かって蹴り飛ばします。
冒頭のこのシーンで飛び散る窓ガラスは本作の象徴のようです。
「暴力」や「セックス」といった無軌道な青春を生きる若者たちの一夏の物語の始まり・・・。


政治の季節は終わりつつあり、若者たちは目標を失いつつあった1971年。
そう、これは1971年夏の映画。
政治的に無関心で何事に対しても熱くなりきれないと言われた「シラケ世代」を象徴する映画。当時の新世代の気質が表現されていると思います。
だからある意味、今観ると時代を感じさせる映画でもあります。しかし、時代を感じるのは悪い事ではありません。やはり、その時代にしか存在しない空気というのがあります。それをしっかりと本作はフィルムに収めています。

 

また、「大人への抵抗」「大人になることへの抵抗」はいつの時代の若者にもある普遍的なテーマでもあります。
特に10代は「大人への抵抗」を通して「大人になっていく」時間かもしれません。
青春という失われてしまう時間の中で、何をして良いのかわからない青春があります。
そして、いつしか気づけば大人になってしまっている自分を知るのです。

 

本作に登場する若者たちは情熱を持って青春を送っているわけではないのです。
行き場のない感情を暴力やセックスによって吐き出し、どこか気怠さのある青春がそこにあります。

 

青春は決して美しいものばかりではないのです。
もちろん、美しいほうが良いとは思うのですが・・・結局は何をして良いのかわからず鬱屈した青春を送っている人も多いのではないでしょうか。
中途半端な自分に苛立ちながら、何かをせずにいられない青春。
生きている手応えを求め始める季節、それが青春なのでしょうか。


八月の濡れた砂」は公開当時、あまり観客が入りませんでした。
しかし、石川セリが歌う主題歌とともに次第に深夜放送や名画座で話題になり、再評価されました。
そして、藤田敏八監督を一躍「青春映画の旗手」として確立させました。
日本映画史に残る名作です。
必見!!!

 

 

 

 

石川セリ八月の濡れた砂

作詞:吉岡オサム /作曲:むつひろし

2003年の映像


石川セリ - 八月の濡れた砂