早稲田松竹で「沓掛時次郎 遊侠一匹」「ざ・鬼太鼓座」を観ました。
僕の大好きな加藤泰監督特集です。
「また一人、長脇差(どす)の下! 名もねぇ三ン下斬ってはみたが親はあるのか子はいたか・・・・・・」(当時のポスターのキャッチコピーより)
以前、新文芸坐で観た事あり。
原作・長谷川伸
主演・中村錦之助
ヤクザ稼業の旅鴉、沓掛時次郎(中村錦之助)は自分を慕う三ン下の朝吉(渥美清)と旅をしています。しかし、ヤクザ世界の抗争に巻き込まれ、朝吉は命を落とします。
朝吉の供養を済ませた時次郎は渡し舟で子どもを連れた女から柿を手渡されます。時次郎はしばらくその母子と旅を共にします。
その後、一宿一飯の渡世の義理で助っ人を頼まれた時次郎は何の恨みもない六ツ田の三蔵(東千代之介)を斬ります。いまわの際に三蔵から恋女房のおきぬ(池内淳子)と一人息子の太郎吉(中村信二郎)の事を託されます。
おきぬと太郎吉のところに行くと、何と2人は渡し舟で出会った母子でした。
時次郎は三蔵と交わした約束を打ち明け、母子を自分の郷里・信州まで送り届けようとしますが、途中でおきぬが病に倒れてしまいます。
おきぬ(池内淳子)の看病をするうちに時次郎(中村錦之助)は彼女にほのかな恋心をよせるようになり苦悩します。
やがておきぬの病気は癒え、再び旅に出ようとした時、彼女は太郎吉を連れて突然姿を消してしまいます。
おきぬも時次郎に恋心をよせるようになっており、亡き夫への想いと板挟みになり苦しんでいたのです。
そして、1年後・・・。
「大好きな長谷川伸氏の名作『沓掛時次郎』である。心をこめて、全力投球で撮った」と加藤泰監督が語っている本作。日本映画史に残る屈指の名作です。
名場面が多く、序盤からその世界に引き込まれます。
前半、渥美清さん演じる朝吉を狂言回しに時次郎がどのような人間か描かれます。同時に朝吉の死を通して、ヤクザ社会の非情さも描かれ、見事な導入部になっています。
時次郎が行方知れずのおきぬに対する思いを、自分の友達の話として宿屋の女将に切々と語るシーン、切ないですね・・・。
女将も本人の話とわかっていながら、「友達」の話として聞いてあげる優しさが心に沁みます。そんな情感溢れるシーンを長回しで、しっかり捉えています。
加藤泰監督作品の特徴である極端なローアングルとクローズアップは本作でも見事に発揮されており、計算し尽くされた構図となっていて、観客をその世界に引き込みます。
この作品は任侠映画でもあり、恋愛映画でもあります。その中から渡世人の悲しみが浮かび上がってきます。
傑作!
「ざ・鬼太鼓座」(1981年/松竹、朝日放送、デン事務所/監督:加藤泰)
「日蓮、世阿弥、無宿、雪国、佐渡おけさ そして今、鬼太鼓座へ」(当時のポスターのキャッチコピーより)
1981年に製作されながら、限定的な公開やイベント上映以外では広く一般公開されず、幻の作品となっていた加藤泰監督の遺作です。
しかし昨年2016年、加藤泰監督生誕100年を記念してデジタルリマスターされ、ついに一般劇場公開!
という事でついに幻の作品はその封印が解かれたのでした。
http://www.shochiku.co.jp/zaondekoza/
この映画はドキュメンタリーなのですが、加藤泰監督の独特な美学と過剰ともいえる演出によって、まるで劇映画みたいになっています。
というより、もはや実験映画・・・かも。
ドキュメンタリーなのに印刷された脚本がありました。
脚本、仲倉重郎とクレジットされています。仲倉重郎さんはこの映画の助監督。後に映画監督、脚本家になります。演奏の状況設定はこの脚本に基づくそうです。
準備に約1年、製作日数は1979年からロケとセットを含めて約2年かけました。
(クランク・イン1979年2月7日/クランク・アップ1980年8月17日/完成1981年2月16日)
「ざ・鬼太鼓座」の撮影終了後、加藤泰監督は最後の劇映画となった「炎のごとく」(1981年5月9日公開)の撮影に入ります。
「炎のごとく」を仕上げた後に「ざ・鬼太鼓座」の仕上げを行いました。
鬼太鼓座は新潟県佐渡にて和太鼓を中心にした日本の伝統楽器を演奏する集団です。1971年に結成されました。
徹底した走り込みを行い、褌姿で演奏するのが特徴です。
そういえば、この映画でも走っているシーンが多い。積雪の町や海岸を走り、体を鍛えています。
ちなみに撮影を開始した年の佐渡では雪が少なく・・・「塩と綿で雪に見せた」とのこと。
神社、海岸、商店街などのロケ、檜や火山を模した美術セットで鬼太鼓座は力強い演奏を行います。セットだと、何と火花まで。
加藤泰監督お得意のローアングルが炸裂しています。
撮影所でもロケ先でも地面に穴があく。「加藤組のロケにはスコップとピッケルを必ず持っていくものだ」と言われるくらいローアングルに対するこだわりがすさまじい。
加藤泰監督の演出ノートによると「若者達がその心と体の極限を駆使して叩き、吹き、弾いて生み出すもの」を伝える映画にしたいと書かれています。
そんな監督の熱い想いによって、当時の鬼太鼓座の若者達の「青春」と「音」がフィルムに刻まれています。
心を直接ドンドン叩かれるような、魂で感じる映画。超必見!!!