司葉子 美しさと凛々しさと「女の座」「ひき逃げ」

新文芸坐で「女の座」「ひき逃げ」を観ました。

司葉子  美しさと凛々しさと」という女優・司葉子さんの特集です。

 

 

「女の座」(1962年/東宝/監督:成瀬巳喜男

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東宝のオールスター映画。井手俊郎松山善三が脚本を書いています。

大家族もので登場人物も多く、漠然と見ているとそれぞれの関係がわからなくなってしまうので集中して観ましょう。笑

 

東京で荒物屋を営む石川家が物語の舞台。

家族構成を説明すると・・・

老夫婦を笠智衆杉山春子(後妻)が演じています。

この老夫婦と暮らしているのが、長男の未亡人とその一人息子、老夫婦の次女、四女、五女。次女は先妻の子で四女、五女が後妻の子。

長男の未亡人が高峰秀子、次女が草笛光子、四女が司葉子、五女が星由里子となっています。

これだけでもややこしく、すごい出演者なのですが、さらに・・・

 

笠智衆演じる父親が倒れて一時危篤になり、先妻の子である長女や、渋谷でラーメン屋を営む次男、九州に住む三女も駆けつけます。父はほどなく回復します。

先妻の子である長女は三益愛子、その夫が加藤大次男小林桂樹、その奥さんが丹阿弥谷津子。三女が淡路恵子、その夫が三橋達也

 

他の出演者の名前もあげると・・・

 

長男の未亡人・高峰秀子の妹が団令子、長女・三益愛子の娘が北あけみ

杉山春子演じる後妻の長男が宝田明

四女・司葉子と五女・星由里子が好意を寄せる青年が夏木陽介

 

ムムム、何て豪華な出演者なんだ・・・。

ちなみに当時の宣伝コピーは「16大スター競演」となっています。

 

一家の父(笠智衆)が回復しても、三女(淡路恵子)とその夫(三橋達也)は九州に帰らず、そのまま居ついてしまいます。そして、しだいに荒物屋の切り盛りに手を出すようになります。

 

長女(三益愛子)の経営するアパートの住人が後妻の母(杉村春子)の最初の嫁ぎ先で産んだ子(宝田明)だとわかります。長女(三益愛子)はその後妻の長男(宝田明)を石川家に連れてきます。

今までお見合いを進められても結婚しないと頑なに言っていたはずの次女(草笛光子)でしたが、後妻の長男(宝田明)に好意を持ち、熱をあげてしまいますが・・・。

この後妻の長男(宝田明)は一見、良い人そうに見えますが実は・・・。

 

家族それぞれの物語が描かれますが、一応、物語の中心は高峰秀子演じる長男の未亡人なのかな。

こんなにたくさんスターが出ていると逆に中途半端になりそうですが、それぞれ登場人物が個性的で印象に残ります。特にスターだらけの映画でも存在感が抜群の高峰秀子さんはさすがだなと思いました。

成瀬巳喜男監督の職人的な手腕が光る傑作です。

 

 

 

 

 

「ひき逃げ」(1966年/東宝/監督:成瀬巳喜男

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以前、新文芸坐で観た事あり。映画監督で脚本家の松山善三高峰秀子の夫)が脚本を書いた成瀬巳喜男監督の隠れた傑作。

 

成瀬巳喜男監督作品で交通事故をテーマにした作品で有名なのは「乱れ雲」(1967年/東宝/監督:成瀬巳喜男/脚本:山田信夫)ですね。「ひき逃げ」の次の作品が「乱れ雲」です。

乱れ雲」が交通事故の加害者と被害者の男女の悲痛な恋愛を描くメロドラマであるのに対して、「ひき逃げ」は交通事故の被害者の母親が真犯人を探して復讐しようとするサスペンスの要素を加味した作品となっています。

 

 

夫を亡くし、中華料理屋で働く国子(高峰秀子)の生きがいは5歳の一人息子なのですが、ある日その一人息子を交通事故で亡くしてしまいます。

息子を轢いたという運転手(佐田豊)は自首し、国子の弟(黒沢年男)の計らいで示談も成立しますが、ある日、国子は目撃者から運転していたのは女だったという話を聞きます。

疑念を持った国子は警察にその事を話しますが、警察はもう解決したと相手にしてくれません。

そこで国子は運転手を雇っていた大手の車会社の重役の家に家政婦として入り込みます。そして、息子を轢いた真犯人は重役夫人の絹子(司葉子)だと悟ります。

国子は復讐の為、絹子の5歳の子どもを殺し、自分と同じ苦しみを味わせようと機会を窺いますが・・・絹子の子どもになつかれ、情が湧いてしまいどうすることも出来ません・・・。

 

一方、絹子(司葉子)は良心の呵責に耐えかねており・・・。

 

 

当時、「交通戦争」という言葉がすでに定着していました。おびただしい量の車の通行がモンタージュされます。しかも、この車、通行人がいてもなかなか止まろうとしないんですね・・・。なんか考えさせられます・・・。

 

ラストシーン、相変わらず自動車の交通量は激しい。その中を国子(高峰秀子)は・・・。

国子の姿があまりに痛々しくて、心に突き刺さり泣けてきます。日本映画史に残る屈指の名シーンです。